【アバスチン】アメリカでは乳がんに使われていません

抗がん剤のアバスチン(Bevacizumab)は、がん治療に用いられる薬物のひとつです。
アバスチンは、がん細胞の成長や転移を抑制し、新しい血管の形成を阻害する働きがあります。
こちらの記事では、アバスチンを取り巻く信じられない状況についてご紹介しますが、まずはアバスチンがどのようにがんを攻撃し、治療の一翼を担うのか解説します。
アバスチンのことは知ってるから説明はいらないよ~という方はこちらからご覧ください。

アバスチンの基本:何者かを知ろう

アバスチンは、がん細胞の進行を抑えるために使われる抗がん剤です。その働きの中心となるキーワードは「血管新生の阻害」です。がんは異常に成長し、そのためには新しい血管が必要です。
アバスチンは、この新しい血管を作る力を抑えることで、がん細胞の成長をコントロールします。

■血管新生って何?
血管新生とは、簡単に言えば「新しい血管を作ること」です。通常、私たちの体ではこれが正常な過程として行われています。しかし、がんの場合、異常な血管が作られ、がん細胞に栄養や酸素が供給され、成長を促進してしまいます。
アバスチンは、まさにこの過程にアプローチします。がん細胞が新しい血管を作ろうとするのを阻害することで、がん細胞への栄養供給を遮断し、その成長を制御しようとします。

アバスチンの使われる場面

アバスチンは、様々ながんの治療に使われています。その中でも、特に以下の症状に対する治療に焦点が当てられています。

  • 大腸がん
    大腸がんは、大腸や直腸で発生するがんであり、アバスチンはその治療に効果を発揮します。大腸がんは初期段階では症状が現れにくいため、進行がんになることが多く、アバスチンはこのような進行した大腸がんに対して一線を画しています。
  • 乳がん
    乳がんもまた、アバスチンが使われる対象のひとつです。乳がんは女性に多く見られるがんであり、アバスチンは特に血管新生が活発な場合に効果を発揮するとされています。
  • 脳腫瘍
    脳腫瘍は、脳内でできるがんの一種です。脳は非常にデリケートな部位であり、通常の治療法が難しいことがありますが、アバスチンは血管新生を抑えることで脳腫瘍に対抗します。

アバスチンの使い方

アバスチンは、通常、他の治療法と併用して使用されます。これは、がんの種類や進行度によって異なります。医師は患者の具体的な状態を詳しく評価し、最適な治療方法を考えます

アバスチンの効果と副作用

アバスチンにはがん治療において期待される効果がありますが、同時に副作用も発生する可能性があります。一般的な副作用には疲労感、高血圧、出血傾向があげられます。
これらの副作用が現れた場合は、適切な医療チームとの連携が重要です。がん治療においては、医師の診察や検査を通じて、副作用のモニタリングが行われることを理解しておくことが重要です。

アバスチンのまとめ

アバスチンは、がん治療の中で新しい希望となる抗がん剤のひとつです。
がん細胞の血管新生を阻害することで、その成長を抑え、治療の成功の一役を担っています。

アバスチンが承認された背景:アメリ

アバスチンは2004年に進行結腸癌の治療薬としてFDAで初めて承認され、その後、進行肺癌、腎癌、脳腫瘍(膠芽腫)に承認されています。
転移性乳がんに対しては、2008年に早期承認プログラムのもと承認されています

■早期承認プログラム
新薬の迅速な承認を促進するためのFDAの施策。治療が臨床試験の初期段階で明らかな利益を示し、患者に有益であることが期待される場合、FDAは仮の承認を与え、同時に製薬会社に継続的な臨床試験の実施を求める。このプログラムを通じて、効果的な新薬が早期から使用可能となっている。

アバスチンの承認が撤回された理由:アメリ

FDA臨床試験の結果に基づき、アバスチンの乳がんに対するリスクがベネフィットを上回ると結論づけました。
参考:Questions and Answers about Avastin | FDA

  1. アバスチンの化学療法への追加投与は、がんが悪化せずにいられる期間(無増悪生存期間=PFS)をわずかに延長しただけだった(パクリタキセル群:5.8月、パクリタキセル+アバスチン群:11.3月)。この延長時間は、早期承認につながった試験データに基づいて予想された値よりはるかに短かった。
  2. 化学療法にアバスチンを追加しても、乳癌女性の延命効果(全生存期間=OS)は認められなかった。(パクリタキセル群:24.8月、パクリタキセル+アバスチン群:26.5月)
  3. 様々な化学療法にアバスチンを追加すると、化学療法に関連する重篤な副作用と同様に、アバスチンによる重篤な有害事象の発生率が増加した。

日本でアバスチンの乳がんに対する使用が承認され続けている理由

FDAと同様の臨床試験を評価した結果、日本では次のように結論づけられました。

一定の有効性と安全性が確認されました。
添付文書の使用上の注意事項等に従い適正な使用がなされれば、アバスチンとパクリタキセルとの併用は、手術不能又は再発乳癌の治療方法のひとつとして意義があると判断され、承認されております。
参考:米国における、アバスチンの乳癌に対する適応削除について/医薬品医療機器総合機構

【参考】EU、イギリスでの承認状況

EUにおいては、パクリタキセルとの併用で乳癌の適応が承認されていますが、イギリスでは推奨されていません。

イギリスではNICEという組織が医療に対する権限を持っており、その特徴としては安全性・有効性に加えて、医療経済性が重視されることにあります。たとえ、安全で有効な医療技術であっても費用対効果に劣る医療技術は推奨されないことが多いようです。
参考:Abevmy | European Medicines Agency , 1 Guidance | Bevacizumab in combination with a taxane for the first-line treatment of metastatic breast cancer | Guidance | NICE

まとめ

今回はドラッグロスではなく、限られた医療費をどう使うべきなのか、というテーマでアバスチンを取り上げました。
ちなみにアバスチンを乳がんに対して使用すると1年で700万越え。もちろん高額療養費制度フル活用です。
日本もNICEのように費用対効果を検討して承認する段階にきていると感じます。

医療費をどう配分するかについては、政治家の皆さまの良識を期待しております。